動いていないとは言うけれど・2
固定ポーズでは休憩時間を挟んで同じ形を再現していきます
そのためにポーズ台と身体が接している面にはマスキングテープなどを貼って、次のポーズ時の目印にします
重心の場所、視線の位置、顔の向きや身体のひねり具合、手の形などは頭の中でよく意識し、ノートにメモをとります
身体と身体が接している箇所は、私は蛍光ペンでマーキングします
例えば腰に手をあてている場合、最初の5分休憩のときに手のひらの形に沿ってサッと蛍光ペンでラインをひきます
その手のひらを腰に押し当てると、スタンプの要領で腰側にも薄く色がうつります
そうすると手をあてる位置の目安になるのです
ポーズ中は手と腰が接しているので、蛍光ペンの色は見えなくなります
あとはホクロの位置なども目印にします
右太もものこのホクロに、右手の小指の第一関節を置く…など、目視で確認してノートに書き留めておきます
こんな感じでポーズ再現のために思い当たる点は何でも確認、何でもメモしておきます
それでもたぶん、厳密に前回と全く同じポーズはとれていないのだと思います
あぁ
空気がゼリー状になっていて、最初にポーズしたときの形を型抜きしておきたいな、そして次からはその抜き型にすぽっと嵌まれば間違いないのに…と、不可能なことを思ったことがあります
空気にマスキングテープを貼れたらいいのになぁ、とかね
動いていないとは言うけれど
美術モデルはポーズ中、動かないことが仕事です
…と何度も述べていますが、実際は少しずつ動いています
「極力動かないようにしている」が正解に近いです
ポーズ時間が始まると美術モデルは動きを固定するのですが、最初は身体に力みがあるようで、それがだんだんほぐれてくるのが3~5分経ったころでしょうか
先生などの手慣れた方はこの時の印象を描き留めているようです
そして身体のひねりが徐々にとれてきたり、力が抜けて肩が落ちてきたり、立ちポーズのときは脚の重心が最初よりずれた位置で安定したり…など、少しずつ変化が出てきます
ここの変化がですね!
モデル本人としては修正した方がいいのか、そのままにしておいた方がいいのか、制作者側にはどこまで変わって見えているのか…悩むところです
頬にあてた指の位置が数cm下がってきている、腰に添えた手がすべってずり落ちた、前屈みになりすぎて、さっき触れていなかった身体と腕がくっついている…など、明らかに変わってきている場合はグッと直してしまうのだけれど
先生がいる場合はたまに意見を聞いてみます
微妙なズレなら構いません、と言われることが多いです
モデルは止まっているけれど、人間なのですから…と
動の中の一瞬を切り取ってポーズとして留めているのだから、上げている腕が辛くなってきたら下ろしてもいいです
それで身体がどうやって動いているのか仕組みが解るのだから…と言われたときもありました
マネキンでも彫像でもない、モデルを呼んでくださっている理由がわかった気がしました
クロッキークロッキー
先日、クロッキーのモデルをしてきました
20分ポーズ1回から始まり、10分×2、5分×4…とだんだん時間が短くなっていく時間割りで、クロッキーではオーソドックスなタイプです
最後の5分は、この前のムービングから気になっていた休憩着を使うポーズをやってみました
服として扱うのではなく、ポーズ固定の補助として使う感じ
ロープのようにねじって、両手で引っ張って頭の上にあげたり、脚に引っ掛けて(ほんの少しだけど)宙に浮かせるときの補助にしたりしてみました
珍しくBGMが流れている会場で、こういうクラシック系の音楽が流れるということは、ヴィーナス系のポーズが似合うんじゃないかなぁと思ってやってみたり…
よく真似するのはこのあたり
ウィリアム・アドルフ・ブグロー『ヴィーナスの誕生』
アレクサンドル・カバネル『ヴィーナスの誕生』
クロッキーはその場の雰囲気、その時の自分の感情に合わせてポーズできる、実験場みたい
ひとつ失敗しても次のポーズで挽回できるしね
楽しかったです
1ヶ月経過
頭の中が「ブログブログ…」といっぱいになってしまうときもありました
ちょっとバランスが悪くなってきたので、これからはもう少しスローペースで更新していこうと思います
歴史上や物語上の美術モデルについても書きたいなぁと思っていて、DVDや本を見返す時間をつくりたいです
私は美術モデルという仕事に関わってから10年以上経ちます
ブランクもあるのでハッキリとは年数を言えないのですが(年に3回しか仕事をしなかったときもあります、あらら~)、他の職業よりも携わってきた期間はいちばん長くなりました
美術モデルのことを知ってもらいたい!という気持ちよりも、自分が今まで経験してきたこと、感じてきたことを形にしたいという気持ちからブログを書いています
その中で、同じ美術モデルさんから共感の声をいただいたことはとても嬉しかったです
美術モデルは基本的に単独行動なのですが、共有してみるとおもしろい、笑えて泣けるエピソードがたくさんあると思います(でも1人でいるのも好きなの)
その他、ご縁があってこのブログを見つけてくれた方、読んでくださり、どうもありがとうございます
それでは、これからもどうぞよろしくお願いいたします
すいう
顔を描いてもらう
先日、ある作家さんの顔の素材としての撮影に参加してきました
余談ですが、ポーズ中の美術モデル(特に裸婦)の撮影は禁止です
もともと撮影に興味があったら、美術モデルではなく写真モデルをしていますので…
美術モデルは制作現場でのみ目撃する不思議な生物だと思ってください
美術モデルは「いま私はポーズをしている」という使命感(?)がありますが、撮影は「いま私は何をされているの??」と、始終ふわふわした気持ちでした
初めてで勝手が分からなかったからかな~
あーなんか精気を吸い取られた気がします
写真を恐れていた昔の人の気持ちが分かる!
お礼として私の絵を描いていただきました
美術モデルの仕事で行ったとき描かれた絵は、描いた人の財産であり糧となります
当たり前ですが、モデルの手元には残りません
でもモデル仲間の中には、クロッキー会で何枚かもらったことあるよ~、などという人がいて羨ましかったのです
これは堂々と自分の絵を貰えるチャンス!と思い、行って来ました
1対1なのでとても緊張したけれど、その分空気も濃密になります
私はやっぱりシャッター音よりも鉛筆の音が好きだなぁ
とても情熱的な、迷いのない音を響かせる方でした
部屋に絵があるっていいですよね
しかも世界に1枚の絵です
嬉しいなぁ♪
早速飾っています
挨拶について
シロタエギク(白妙菊)の花
通常は銀葉を楽しむものですが、花もかわいい
一昨日の記事での社会人経験をしてよかったことのひとつは、美術モデルの仕事中にも活かされています
特別に意識していなかったけれどこの仕事を始めたころによく言われたので、これは前職のおかげかなぁ、という感じなのですが…
それは「今日は礼儀正しいモデルさんが来た!」という反応です
どうやら美術モデルの中には、挨拶をしない、無言でポーズを開始・終了する、休憩時間はずっとスマホをチェックしていたりしてコミュニケーションをとらない…という方がいるようです
でもたまに仕事で他のモデルさんと一緒になると、みんなきちんと挨拶しています
悪例が目立って独り歩きしているのだと思いますが、それだけ印象が悪い方向に強かったということです
モデルはその日のゲスト(お客ではありませんが)として単発で入りますが、教室やサークルなどはお馴染みのメンバーで構成されていて、仲の良い雰囲気が出来上がっています
そこにゴロッと無愛想なモデルが入ってくると…空気が変わってしまうのでしょうね
休憩中はモデルもストレッチやメモなどのするべきことがあったり、私も人見知りなので和気藹々とコミュニケーションをとることはできませんが、挨拶は大切だと感じています
会場に入ったら「はじめまして。今日はよろしくお願いいたします」
ポーズ開始のときは「始めます」や「よろしくお願いします」
ポーズが終わったら「終わります」や「ありがとうございました」
会場を去るときは「今日はありがとうございました。またよろしくお願いいたします」
これを言うと自分も制作者のみなさんも、今日は大丈夫、という安心感(信頼)が生まれるのだと思います